大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(モ)1935号 判決

申請人 三浦健次

被申請人 別子鉱業株式会社

一、主  文

当裁判所が昭和二十五年(ヨ)第一五六号仮処分申請事件に付昭和二十五年五月八日なした仮処分決定を取消す。

申請人の本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

申請人代理人は主文記載の仮処分決定を認可するとの判決を求め申請の理由として次のように述べた。

(一)  訴外井華鉱業株式会社(以下井華鉱業と略称する。)は金属鉱業部門と石炭鉱業部門とを以て構成せられた鉱業を目的とする株式会社であつて、東京その他全国に事業所を設け七ケ所の鉱山十三ケ所の炭坑を経営している。そして右各鉱業所ごとに鉱員組合と職員組合とがあつて、それぞれ全国的に連合会を組織し、なお金属部門に於ては、更に単一の井華鉱業株式会社金属鉱山労働組合連合会を組織しており、井華鉱業株式会社東京従業員組合はこれに属している。

申請人は昭和十四年四月井華鉱業の前身である住友鉱業株式会社に入社し、昭和二十一年一月から井華鉱業株式会社東京従業員組合の副委員長委員長等となり、昭和二十四年三月十五日被申請人会社の調査役補に任ぜられて非組合員となり今日に至つた。

(二)  しかるに井華鉱業は昭和二十四年十二月二十八日申請人に対し、同会社と井華鉱業金属鉱山労働組合全国協議会との仮協定書(昭和二十四年十月二十七日成立)所定の解雇者選定基準中「技能能率の低いもの」及「協調性に欠ける者」に該当することを理由として申請人を解雇する旨の意思表示をした。

(三)  しかしながら申請人は井華鉱業の主張する右解雇基準に全く該当しないのであつて本件解雇は畢竟申請人が前記のように労働組合の役員として組合活動をして来たことを理由とするものであるから労働組合法第七条に違反する行為として無効である。なお井華鉱業が前記の如く申請人を調査役補に任命したのは、申請人を非組合員としておいて不当労働行為を形式上合法化しようとしたものであつて井華鉱業東京従業員組合に於ても会社の右企図を封ずる為二、三ケ月後には申請人を通常業務(ルーテイングウワーク)に復帰させることを条件として右人事を承認し会社も昭和二十四年九月二十六日右協定を確認したに拘らず僅々数ケ月を経ない同年十二月二十八日に本件解雇の挙に出でたもので、この点に於ても著しく労使関係に於ける信義誠実の原則に違反するものといわねばならぬ。

(四)  以上の如く本件解雇は無効であるので、申請人は解雇無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、解雇が無効であるに拘らず本案判決確定に至る迄被解雇者として取扱われることは、給料生活者である申請人にとつて著しい損害となるばかりでなく、申請人の所属する前記従業員組合の組合活動にも重大な損失を生ぜしめるので従業員としての仮の地位を急速に保全する必要がある。

(五)  そして本件解雇後井華鉱業は昭和二十五年三月一日会社経理応急措置法及企業再建整備法に基き第二会社として被申請人会社を設立し、井華鉱業の金属部門(申請人はこの部分に勤務していた)に於ける従業員の地位を含む一切の法律関係は、被申請人会社に承継せられたので申請人は被申請人会社に対し申立趣旨記載の判決を求めると述べた。

被申請人代理人は主文第一、二項記載の判決を求め、答弁として次の通り述べた。

申請人が申請理由として主張する事実の中一、二及五の事実はいずれも認めるが其の余の事実は否認する。申請人は次の事由により申請人主張の解雇基準に該当するものである。

(一)  「技能能率の低いもの」である。

(1)  申請人は昭和二十四年三月調査役補に任ぜられた直後井華鉱業鈴木次長の指示により「米国に於ける景気の研究」と云う事項について調査を命ぜられたがその後上司に中間的な連絡又は報告をなさず同年六月に至り漸く緒論的な報告をしたに過ぎない。そしてその後も更に調査の続行を命ぜられたに拘らず、上司に対して連絡又は報告をなす等調査の実質的効果をあげるための積極的努力が何等認められなかつた。

(2)  申請人は執務時間中理由なく組合事務所に屡々出入し、組合関係者其他と雑談に耽り又「アカハタ」の配布、共産党入党の勧誘をなす等自ら執務を怠ると共に、他の職員の執務をも妨げることが多く、其の執務態度は同僚に比して不良であつた。

(3)  申請人が組合活動に専従するまでの勤務成績も同僚に比べて特に優秀であつたともいえない。

(二)  「協調性に欠ける者」である。

(1)  調査役補として在任期間中隣席にいた鈴木次長に対し、業務遂行上の連絡を全然せず、又その指示を仰ぐことも全くしなかつた。

(2)  社内に於ける部課長会議に於ても発言せず、無関心の態度を示し、又部課長の利益擁護のための自主的団体である土旺会に於ても孤立した態度をとつていた。

(3)  申請人は調査役補として経営補助者たる地位にありながら積極的に組合活動に介入し屡々組合員に対して会社と抗争する様煽動する等の事実があつたので、経営補助者としてふさわしからぬ態度として同僚の経営補助者の不満憤激を買い孤立化するに至つていた。

なお申請人を調査役補に任命したのは申請人が病気快癒後で通常業務の激務に適しないこと、申請人には調査能力があり調査役補に適材であると認めたこと、同期に入社したものが殆んど全部経営補助者に昇進していること等の理由によるもので、申請人自身も経営補助者に昇進することについては異議がなかつたのであるから、決して申請人の主張するように不当労働行為を形式上合法化する意図の下に任命したものではない。又会社としては右任命後も申請人の希望により申請人の健康状態、勤務成績ポストの関係等を観察考慮して特別の支障のない限りは通常業務に復させる意向であつた。ところがその後所謂ドツジラインの実施に伴う金融の逼迫、販売の不振等による会社経理の窮迫銅補給金撤廃必至の情勢(昭和二十四年八月)其他の事情により会社としては急速に企業合理化の必要に迫られ、東京、大阪に於ては同年十月四、五日頃から整理案の検討を始め十月二十七日に至り組合との間に整理基準及整理人員に付て最終的協定が成立したので、会社は右整理基準に照らして慎重検討した結果申請人が前記の如く解雇基準に該当するので遂に解雇するに至つたものである。従つて昭和二十四年九月二十六日会社が労働組合に対し、特別の支障がなければ申請人の通常業務への復帰を図る旨囘答したのは、当時会社としては単に経営合理化案を考慮していた程度で、特定個人の解雇を問題にする事態に至つていなかつたので、申請人に対する会社の従前からの意向を再び確認したに過ぎず、右囘答後に生じた全く別個の理由によつて本件解雇をなすのやむなきに至つたのであるから、これを以て信義則違反と謂うことはできない。

以上の如く本件解雇は決して申請人の主張する如く不当若くは違法のものではないから、本件申請は却下さるべきであると述べた。(証拠省略)

三、理  由

申請人主張の事実中訴外井華鉱業が申請人主張の如き内容の会社であつて、その従業員の組織する申請人主張のような各労働組合が存すること、申請人が申請人主張の各日時に入社し組合役員となり、更に調査役補に任ぜられたこと、申請人主張の日時に申請人主張の理由によつて申請人に対し解雇の意思表示がなされたこと、本件解雇後被申請人会社が設立せられ、井華鉱業の金属部門に於ける一切の法律関係を承継したことについてはいずれも当事者間に争がない。

申請人は本件解雇はその実申請人が前記の如く組合役員として組合活動をしたことを理由とするものであると主張するが申請人側からはこの点に付何等の疎明をせず、井華鉱業が本件解雇をなすに至つた決定的理由が申請人の組合活動にあると認めるに足る証拠は存しない。なお申請人は井華鉱業が申請人を非組合員である調査役補に任命しその後通常業務に復帰させることを承認しながら数ケ月を経ずして解雇の挙に出たのは信義則に違反すると主張するが証人鈴木和、同内田醇、同河上健次郎の各証言によれば井華鉱業は被申請人の主張するような理由で本件解雇を行つたことが一応認められ申請人は之に反する何等の疎明をしない。従つて仮に申請人主張のような事実があつたとしてもこれだけの事実で信義則に違反した無効の解雇であるとはいえない。

よつて申請人が本件解雇の無効原因として主張する事実はすべてこれを認めることが出来ないので、申請人の本件申請は理由がないから、右と異る認定のものに当裁判所が昭和二十五年五月八日なした仮処分決定はこれを取消し、右申請を却下することとし、訴訟費用は敗訴当事者である申請人に負担させ、右仮処分を取消す部分に付ては仮執行の宣言を付することを相当と認め主文の通り判決した次第である。

(裁判官 千種達夫 中島一郎 田辺公二)

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